最高裁判所第二小法廷 昭和31年(オ)943号 判決 1960年8月26日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人増田弘の上告理由第一、二点について。
後見人の職務執行停止の仮処分命令において、同時に後見人の職務代行者が選任された場合でも、後見人に対する職務執行停止の効力はその命令正本が当該後見人に送達されたときに生ずるものとした原判決の判断は正当である。所論は、独自の見解のもとに右仮処分命令の効力発生の時期を争うものにすぎず、採るを得ない。
同第三点について。
原審の適法に確定したところによれば、上告人は、祖父の死亡によつてその家督相続をしたが、祖父の残した負債整理のため本件家屋を売却する必要を生じ、上告人の後見人只野やゑは、昭和一八年二月二五日親族会の決議に基づき、右家屋を鎌田鋭治に対し代金一万四千円で売却し、同月二七日同売買による同人の所有権取得登記をしたというのであり、また、只野やゑに対する後見人の職務執行停止の仮処分命令が同人に告知されたのは、同月二六日であつたというのであつて、やゑが上告人の後見人としてした右売買は、右仮処分命令の発効前になされているのであるから、もとより有効である。そして右のように家屋の売買契約をした場合には、売主は、買主をしてその所有権の取得を完全ならしめるに要する登記義務を負い、やゑは、上告人の後見人として登記義務を履行すべきところ、右仮処分によつて、その職務の執行を停止され、仮処分後は、やゑは上告人の後見人として登記手続をなし得ないものというべく、従つて、やゑがした右登記手続は、不動産登記法三五条所定の要件を具備しなかつたものといわなければならない。しかし、右登記が前示売買による鎌田鋭治の所有権取得の事実関係に符合するものであることは、前に述べたところによつて明らかであり、上告人は前示仮処分送達前適法に為された売買によつて既に本件家屋に対する所有権を喪失したものであるから、右鎌田鋭治の遺産相続人鎌田清司から本件家屋の贈与を受けた被上告人に対し右家屋につき所有権の移転登記を請求する権利はないものというべく、上告人の本訴請求を排斥した原判決は正当である。論旨は理由がない。
同第四点について。
所論は、原審の専権に属する証拠の取捨、事実認定を非難するものに過ぎず、採用の限りでない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)